コシノヒロコ
婦人服、ライフスタイル関連、紳士服など、数多くのファッションアイテムのデザインを手がける一方、近年はアート活動にも精力的に取り組み、2013年にKHギャラリー芦屋を開廊。
1997年第15回毎日ファッション大賞 受賞、 2001年大阪芸術賞受賞。
Q1 30年前に食器をデザインしようと思ったきっかけは?
ローマのアルタ・モーダやパリコレクションで作品を発表していた頃、認められるためには自分のスタイルを持たなければと考えました。当時私は、日本独特の生活様式とコンクリート打ちっ放しのモダンさが組合わさった、安藤忠雄氏設計の家を建てていました。
そのシンプルな空間の中で考えたデザインを、海外に打ち出していったのです。私の考える美が凝縮された、ひとつの世界をつくりあげたい。身の回りのものも、その世界の中から生まれます。その空間で生活することで、どんな食器が必要になるだろうか。そう考えたのが、食器をデザインしたきっかけです。
Q2 「藍がさね※」をデザインされたときの思いをお聞かせください。
「藍がさね」をデザインした頃、私は古伊万里や古九谷の器に夢中になり、たくさん集めていました。それらに現代性を見出していたのです。
またコンクリートの空間と、伝統的な器の対比が面白く非常にモダンだと感じていました。そうしたところからヒントを得て「藍がさね」が生まれました。
Q3 これまで手掛けられたシリーズは「和」を感じる絵柄のデザインとモダンな洋食器が調和していますが、心がけている点やこだわりはありますか?
私のデザインのルーツは、やはりシンプルな空間、環境の中からものを想像すること。そして「新しい和の姿」の追求が大きなコンセプトです。
西洋の世界には無かったミニマリズムは日本文化本来の美しさ。和と洋をどう取り入れれば、次世代の新しい和が生まれるのか。
私は自分の暮らしの環境を整えて、リアリティのあるデザインの在り方を考えています。
Q4 食器をデザインするにあたり、ファッションデザインとの違いはありますか?
まず、私のファッションデザインはどう在るべきか。世界の人が考えられない自分だけのスタイルとは何か。それはやはり新しいフュージョン、今までにない東洋と西洋の美のシンクロナイズだと思います。
食器は人が生活の中で使うものです。そこに私の考えるデザインが組み込まれることで、料理の在り方が今後変わっていくかもしれない。
ファッションと食器のデザイン、そこに流れる発想は同じなのです。
Q5 「墨の瞬」の原画において表現したかったことを教えてください。
墨の色にはたくさんの色が秘められています。そして墨と和紙、水という「自然」を引き入れて、どのようにして人の内側から生まれる表現と融和させるのか。それは独特のミニマリズムの世界だと思います。
それを食器の中に描き出すことは、瞬間に生まれるスピード感のあるタッチの中で、言葉にできない哲学を感じ取り、そして墨の美しさをあらわすことです。
「墨の瞬」シリーズにおける画材は、墨の色と筆の運び方。そしてファインボーンチャイナの清潔感ある白は、和紙とは異なる「洋」の世界。それに墨をのせたときの新鮮さがあります。
Q6 「墨の瞬」シリーズを使った、おすすめのテーブルコーディネートはありますか?
暮らしの中にアートを取り入れることには、絵画や彫刻を展示するのとはまた違った良さがあります。着物や洋服、食器もそうです。テーブルコーディネートに「墨の瞬」を取り入れることは、料理に厚みと奥行きを加えるでしょう。和食でも洋食でも、世界のどんな料理とでも、新しいフュージョンラインを生み出します。それによって、料理の世界も変わっていくのではないでしょうか。人の在り方は環境によって左右される。料理にとって一番近い環境である食器は、料理の在り方を変えるかもしれません。
Q7 ますますエネルギッシュなコシノヒロコさん。そのクリエイションの源泉はどこから来ているのでしょうか?
昔は、旅をしたり恋をしたり、そういうことでインスピレーションを得ていました。今は、物を作る、描く時間そのものの中に自分の「表現」がほとばしる瞬間を感じます。人の体力には限界がありますが、自分のやっている行為を信じて、自分の出せる力を発揮したとき、新たなエネルギーが湧いてくる。そう実感しています。